先日もお伝えした発言要旨ですが、かなり長いので一項目ずつ答弁と再質問の内容を簡単に説明します。
観光からみた鉄道の重要性や代替バスの問題点は?
一点目は、観光まちづくりや移住促進の視点から鉄道の重要性や代替バスの問題点はどう認識しているかという質問でした。全点に渡って、担当の柳谷企画課長から答弁をいただきました。
昨年策定した総合戦略でも交流人口増大を目指した施策を実施中であり、また新千歳空港発着枠拡大、新幹線開通という状況からも道外や海外からの観光客が増大する可能性が示されました。
特にJR各社共同で発行している外国人向け周遊きっぷ『Japan Rail Pass』は人気であり、鉄道だからこその誘客の可能性を指摘しました。
代替バスは苫小牧駅から浦河駅までの区間で都合2回の乗り換えがあり、所要時間は最短で4時間、最長で4時間半でかつ渋滞リスクもあることから観光には不向きとの見解でした。
概ね私と認識を同じくするものですが、『Japan Rail Pass』の問題点を再質問しました。
平成23年と少し古いのですが、道の「観光客動態・満足度調査」によれば北海道への外国人観光客のうち3割以上が移動手段として鉄道を利用し、また約半数はインターネットが観光情報の入手先です。
当然この周遊きっぷで鉄道を利用する方もインターネットで調べて次の行き先を考えたりするでしょう。
ところが今回はじめて知って驚いたのですが、JR北海道の外国語ページにはJR日高線の時刻表は掲載されていません。
これでは日高地域への移動ははじめから思いもよらず、存在しないに等しいのではないでしょうか。当然代行バスの記述もありません。
またもしいらっしゃったとしても、当然現場にも外国語表記の案内はありません。
代行バス内では金銭を取り扱っていませんから、110km以上に及ぶこのバス区間のうち、常にお金を払える有人駅は静内駅しかありません。事実上、無賃乗車可能な状況です。
地元客はともかく訪問客はわかるでしょうか |
日本人ですらよくわからないこうした仕組み、外国人のお客様に理解頂けるのか、そもそもJR北海道はこの路線で少しでも多くの方々に利用していただき、お金を受け取り、利益をあげるつもりがあったのか極めて疑わしい状況です。
それでも利用者が少ないのは地域だけの責任でしょうか?
こうした問題点の対応や先方の考えを問いただしていただきたいと要望しました。
沿線自治体からの要望に対する多額の経費、その分析は?
二点目は、日高町村会が提案した利用促進案に対して3.4億円/年、初期投資40億円が必要と報道にあったが、これに対する町の分析はという質問でした。
ちなみに内容と経費のリストは下記の通りです。
項目 | 経費(千円) | 収入(千円) |
① 浦河町内に新駅 | 3,000 | 1,000 |
② 静内-札幌間直通に8車両新造 | 216,000 | 37,000 |
③ 様似-苫小牧間サイクルトレインに1両新造 | 18,000 | 6,000 |
④ 様似-札幌間イベント列車に4両新造 | 95,000 | 8,000 |
⑤ 行き違い設備新設 | 6,000 | 0 |
合計 | 338,000 | 52,000 |
要望事項に対して「車両の老朽化が進んで車両数が不足しており、高速走行できる車両が必要」との回答だったそうです。ちなみに自治体からの要望事項は新ダイヤ検討などで、もちろん車両新造などはもとから要望していません。
注目の金額の内訳ですが、報道にあった30〜40億円の初期投資のうち95%が車両新造費、単年度経費についても50%以上が車両の減価償却費とのことでした。
ごく控えめに言って、驚きました。
要するに「復旧するならば、必要な車両はすべて沿線自治体の負担相当」と言っているに等しいです。これらの車両、日高線だけで使うものでは絶対ないですから。
そもそも必要だと言っている261系の新車両ですが、これはJR北海道自身が390億円かけて整備するとすでに計画しているものです。一地域として負担する筋のものではありません。
車両のことを抜きに考えれば、すべて実施したとしても初期投資2億円、経費1.7億、収入0.5億円でしょうか。まったく話が違ってきます。
また2012年に札沼線が電化した際に、多数のディーゼル車を破棄にしました。日高線でも活用できるものです。
この一部は売却され、ミャンマーで14両、東北でもSL銀河として4両が使用されました。
まだまだ現役で活用できるものを売却しておきながら、車両数が不足しているのでしょうか。ついでに言えば、日高線を走っていたキハ40は、車両不足なのか現在夕張を走っています。
そもそも中古で車両を購入すれば数千万円程度と聞いています。
万が一、経営判断を誤って売却してしまったならば、新造するよりJR東日本から中古を購入してみてはいかがでしょうか。
議論中の事案ですし、JR北海道に対する疑問ですから町に回答は求めませんでした。
要するに申し上げたのは、私も専門家に聞いて調査したものであり、自治体は鉄道専門の職員などおらず、相手より少ない情報しかもっていない交渉は確実に不利になる点です。
交渉で先手をとるためにも専門家をアドバイザーとして随時助言をいただきながら進めるべきとご提案申し上げました。
観光ビジョンと負担を示し、利用促進策として主張は?
三点目として、報道だけをみれば、自治体がJR北海道に要求する一方にみえるが、鉄道活用の観光ビジョンと振興策と負担を示し、利用促進策として主張できないのかとの質問でした。
上記のように、これまでJR北海道から日高線を使ってもらう努力、復旧に向けた誠意がみえてこないのが地域に住んでいるものとして率直に感じるところです。
しかし二点目のような報道がされれば、沿線自治体は努力もせず、JR北海道に要求しているばかりにみられても仕方がありません。
「JR北海道に対しては、合計40項目にのぼる地域としての取り組みをまとめたものを提出している」との答弁でしたが、何をもって取り組んだといえるかわかりづらいものです。
歯がゆいところですが、自治体として取り組んでいることをわかりやすく示せれば、沿線自治体に好意的な世論形成もできるのではないかと提案しました。
つまり、数字で示すことです。
今年度、浦河町は観光協会の組織強化を図り、法人化を目指しています。
補助金2,000万円を予算化しています。
この観光振興は当然JR日高線があることを前提として取り組んでいるのではないでしょうか。
産業振興を目的として2,000万円を支出するわけですから、当然浦河町全体の経済効果を期待するところであります。
ここでは例えば、今までよりプラス1億円の直接的経済効果を目標とします。
観光振興ですから、当然余所から浦河町に来ていただき、過ごしていただくわけです。
おひとり2万円の町内支出を仮定すると、5,000人に来ていただくとちょうど経済効果1億円です。
5,000人のうち2割は新千歳からJRで来ていただくとして、1,000人。1,000人の方が新千歳-浦河間の片道3,380円、往復で6,760円を支払う計算になります。
当町の観光振興による鉄道収入だけで680万円の試算です。
浦河町としては2,000万円というリスクを背負って、JR北海道に680万円の売上増に貢献する事業にすでに取り組んでいることになります。
逆に言えば、日高線が早期復旧ならず、この想定していた1,000人がいらっしゃらないことになれば、おひとり2万円の地域経済の機会損失として2,000万円をJR北海道に請求してもよいかもしれません。
以上のために浦河町がすることはただひとつです。
観光協会強化による直接的経済効果の金額とその積算を明確にすることです。
例として1億円としましたが、金額は検討の上で提示できないものでしょうか。
また以上は当町だけの話ですが、日高管内他町もJR日高線があることを前提にすでに取り組んでおり、運休による損害を受けている事業、さらに今回の地方創生関連中心に今年度から新しく取り組み始めた事業は他にもあるはずです。
周知の通り単独自治体の観光資源には限界があるわけですから、観光振興には日高一体となって取り組まなければなりません。日高管内他町の関連予算とそれによる鉄道の売上増効果を取りまとめて提示してもよいのではないでしょうか。
説明が難しくなってしまったせいかあまり芳しくない反応でしたが、ぜひ検討いただきたいものです。
再開後の利用喚起につながる取り組みは?
最後に、行政としても町民に政策理解を広げる努力はしないのか。再開後の利用喚起につながる施策も必要ではないか。 例えば社会教育の一環として、JR日高線の魅力や記憶の掘り起こしを狙う取り組みはできないのかという質問でした。
今後、町の広報でも経過を報告したり、社会教育課とも連携して取り組むと大変前向きの答弁をいただきました。
吉野社会教育課長からは「講演会や写真展、特に若者や子どもは利用する機会も昔より少ない。鉄道の魅力を知ったり将来を考える機会を検討する」と具体案も示されました。
本州では実績のある運休中の鉄路のウォーキングイベントも提案しましたが、これは住民から主体的に企画していったほうがよいかもしれません。
池田町長からは「駅新設や単発イベントでは自治体負担も検討との話もしているが、最初に言っていた話から遠のき、近づいたと思ったらまた少し遠のくという状態。報道にあった酒井新ひだか町長の話のように道や国が主導する問題として提起する」と答弁もありました。
私としてもJR日高線の復旧問題は日高という一地域の話ではもはやなく、北海道全体の鉄路の問題と認識しています。札幌近郊を含む全線が赤字なのですから、一企業に任せてすむ問題ではもはやありません。
しかし自治体として、住民としてできることもまだまだあるはずと考え、今回は様々に提案させていただきました。
最後に、他所の人が利用する路線にする、そのために来たくなるような魅力あるまちづくりに邁進する、ますます利用者が増える、地域の公共交通を維持する、こうした好循環をつくりだすことが観光まちづくりの要点であるはずだとの考えを述べました。
車窓からこの景色は全国でも日高だけ |
「代替バスでいいじゃないか」という声もありますが、バスに替わった路線の一般的な問題点も周知の通りです。
不便さによる利用者の減少、ゆくゆくは減便、まちの衰退、維持するために自治体負担が増加、こうした悪循環が容易に想定されるわけです。
現在は浦河高校通学生50名のために代行バス2台が運行しています。
ざっと仮に試算しても、1台10万円として2台で20万円。通学日数が200日と考えただけでも4,000万円です。帰りは考えず、通うだけでこれだけかかります。
町単独で負担できる金額ではありません。
さらに現在は公共交通機関を利用する場合、代行バスで苫小牧まで4時間、札幌へは高速路線バスで3時間半です。つまり、札幌が浦河町から最寄りの都市になります。
こうした物理的速度の問題から、日高管内での移動量が減少し、人的交流や地域の一体感が中長期的に衰退していく可能性も非常に高いです。
これを回避するために、鉄道の早期復旧、維持は大変重要なことだとあらためて指摘し、それを観光の経済効果明示などによる解決への道を提案させていただきました。